社労士が解説:戦略的採用実践シリーズ④ 法定遵守の確認と改善
- 代表 風口 豊伸

- 8月9日
- 読了時間: 7分
はじめに
これまで自社分析、人格分析、教養基準設定と採用の基盤作りを進めてきました。しかし、どんなに優れた採用戦略を構築しても、法的な問題が発生すれば、企業の信用失墜や訴訟リスクにつながる可能性があります。
第4回となる今回は、「法定遵守の確認と改善」について詳しく解説します。採用活動における労働法規の遵守は、単なるリスク回避ではなく、優秀な人材からの信頼獲得と企業価値向上のための重要な要素です。
近年、働き方改革や同一労働同一賃金の導入により、労働法規は複雑化し、違反に対する社会的な目も厳しくなっています。「知らなかった」では済まされない法的責任を負う現代において、採用段階からの適切な法令遵守体制の構築が急務となっています。
今回は、採用プロセスで遵守すべき法的要件を体系的に整理し、実務で活用できる改善策をお伝えします。
目次
採用における法的責任の重要性
求人・募集段階での法令遵守
選考プロセスの適正化
雇用契約締結時の注意点
まとめ:コンプライアンス体制の構築
1. 採用における法的責任の重要性
法令違反がもたらすリスク
採用活動での法令違反は、企業に深刻な損失をもたらします:
直接的な損失:
労働局からの指導・勧告
損害賠償請求訴訟
刑事罰(悪質な場合)
行政処分による事業停止
間接的な損失:
企業イメージの失墜
優秀な人材からの敬遠
取引先からの信頼失墜
採用ブランドの毀損
法令遵守は、短期的なコスト削減よりもはるかに重要な経営課題です。
遵守すべき主要法令
採用活動で特に注意すべき法令は以下の通りです:
労働基準法:
労働条件の明示義務
賃金支払いの原則
労働時間の上限規制
年次有給休暇の付与
男女共同参画社会基本法・雇用対策法:
性別による差別の禁止
年齢制限の原則禁止
合理的理由のない採用基準の禁止
セクシャルハラスメントの防止
個人情報保護法:
個人情報の適切な取得・管理
利用目的の明示と同意取得
安全管理措置の実施
第三者提供の制限
これらの法令を正確に理解し、遵守することが企業の社会的責任です。
2. 求人・募集段階での法令遵守
適切な求人情報の作成
求人票や募集要項の記載内容には、厳格な規制があります:
記載必須事項:
業務内容の具体的な記載
労働条件の明確な提示
就業場所と就業時間
賃金の額と計算方法
記載禁止事項:
性別を限定する表現
不合理な年齢制限
差別的な条件設定
誇大・虚偽の労働条件
記載上の注意点:
「実際とは異なる場合がある」といった曖昧な表現の回避
試用期間中の条件変更の明記
昇給・賞与の実績に基づく記載
福利厚生の正確な内容表示
適切な求人情報により、応募者との無用なトラブルを未然に防ぐことができます。
募集方法の適正化
求人媒体の選択と利用方法にも注意が必要です:
媒体選択の考慮事項:
ターゲット層へのリーチ効率
掲載内容の審査体制
個人情報の取り扱い方針
法令遵守への対応状況
掲載内容の管理:
定期的な内容の見直し
条件変更時の迅速な修正
応募者への正確な情報提供
問い合わせ対応の統一
募集段階での適切な対応が、後の選考プロセスの円滑化につながります。
3. 選考プロセスの適正化
面接での質問事項の制限
面接では、就職差別につながる質問が法的に制限されています:
禁止される質問例:
本籍地や出身地に関する質問
家族構成や配偶者の職業
宗教や政治的思想に関する内容
結婚や出産の予定
適切な質問の設計:
業務遂行能力に関する質問
志望動機や将来への展望
過去の経験と学習内容
企業文化への適応性
面接官への教育:
法的制限事項の周知徹底
適切な質問例の提供
ロールプレイング研修の実施
定期的な知識更新
面接官全員が法令を理解し、一貫した対応を取ることが重要です。
選考基準の客観化
恣意的な判断を排除し、公正な選考を行う仕組みの構築:
評価基準の明確化:
職務遂行に必要な能力の定義
評価項目と配点の設定
合格基準の客観的設定
複数人での評価体制
記録の適切な管理:
面接評価シートの作成
選考理由の文書化
不採用理由の明確化
記録の適切な保管・廃棄
採用決定プロセス:
複数段階での検討
関係者間での情報共有
最終決定の根拠明示
異議申し立て対応の準備
客観的で公正な選考プロセスにより、優秀な人材の適切な評価が可能になります。
4. 雇用契約締結時の注意点
労働条件通知書の作成
雇用契約締結時には、法定項目を網羅した労働条件通知書が必要です:
絶対的明示事項:
労働契約の期間
就業の場所と従事する業務
始業・終業時刻と休憩時間
賃金の決定・計算・支払方法
相対的明示事項:
昇給に関する事項
退職に関する事項(解雇事由含む)
賞与や諸手当の内容
安全・衛生に関する内容
作成上の注意点:
口約束ではなく書面での交付
理解しやすい表現での記載
求人内容との整合性確保
法改正への対応
適切な労働条件通知書により、入社後のトラブル防止が図れます。
試用期間の設定と運用
試用期間の設定には、法的な制限と運用上の注意点があります:
試用期間設定の要件:
合理的な期間設定(通常3~6か月)
就業規則への明記
労働条件通知書での明示
本採用拒否事由の明確化
試用期間中の注意事項:
適切な指導と評価の実施
定期的な面談によるフォロー
問題点の早期発見と改善指導
本採用可否の客観的判断
解雇制限の理解:
入社14日経過後は解雇予告が必要
客観的合理的理由の必要性
社会通念上の相当性の要求
解雇回避努力の実施
試用期間の適切な運用により、ミスマッチの早期解消と人材育成の両立が可能になります。
5. まとめ:コンプライアンス体制の構築
継続的な法令遵守体制
採用における法令遵守は、一時的な対応ではなく継続的な取り組みが必要です:
体制構築のポイント:
責任者の明確化
定期的な法令改正情報の収集
関係者への継続的な教育
違反防止のためのチェック体制
実務での運用方法:
採用プロセスごとのチェックリスト作成
外部専門家との連携体制
問題発生時の対応マニュアル
定期的な見直しと改善
記録管理の徹底:
採用活動記録の適切な保管
個人情報の安全管理
法定保存期間の遵守
廃棄時の適切な処理
継続的な体制整備により、安定したコンプライアンス確保が実現できます。
法令遵守による企業価値向上
適切な法令遵守は、企業にとって多くのメリットをもたらします:
信頼性の向上:
求職者からの信頼獲得
取引先からの評価向上
社会的な企業イメージ改善
ESG経営への貢献
採用力の強化:
優秀な人材からの応募増加
採用ブランドの向上
従業員満足度の向上
離職率の低下
経営リスクの軽減:
法的トラブルの回避
損害賠償リスクの軽減
事業継続性の確保
経営の安定化
法令遵守は単なるコストではなく、企業価値を高める重要な投資であることを認識することが大切です。
自社分析、人格分析、教養基準設定、そして法令遵守の確保により、採用活動の基盤が整いました。次は、これらの基盤の上に、企業の魅力を効果的に伝える仕組みの構築が必要です。
次回は、「企業理念の言語化と業務への落とし込み」について詳しく解説します。抽象的になりがちな企業理念を、採用活動で活用できる具体的なメッセージに変換する方法をお伝えします。
次回予告:戦略的採用実践シリーズ⑤ 「企業理念の言語化と業務への落とし込み」 企業理念を採用メッセージとして活用するための具体的な言語化手法と、日常業務に落とし込むための実践的な方法を解説します。理念に共感する人材の獲得と定着を実現する仕組み作りをお伝えします。

Amazonにて絶賛発売中!!
「企業倫理」部門
「人事・労務管理」部門
「職場文化」部門
Amazonランキング1位獲得!!
部門別3冠を達成しております。
第2章には、前々回のブログ記事を詳細にした具体的な採用手法が記載されており、その情報を基に御社独自の採用手法の構築が可能となります。
電子書籍 :759円(税込み)
ペーパーバック版:1,650円(税込み)
下記URLより購入できます。
ご購入お待ちしております。






コメント