top of page

社労士が解説:会社経営に不可欠な就業規則の重要性

はじめに

前回は「労務管理・法令遵守編」として、賃金支払いに関する法令遵守のポイントをご紹介しました。今回は「就業規則編」として、企業経営において就業規則がなぜ重要なのか、またどのような場合に作成義務が生じるのかについて解説します。

就業規則は単なる形式的な書類ではなく、会社と従業員の関係を規定する「会社の法律」とも言える重要な規程です。しかし、その作成義務や重要性について誤解している経営者も少なくありません。この記事では、就業規則に関する基本的な知識と、経営上のメリットについて解説します。


 

目次

  1. 就業規則の作成義務と「常時使用する労働者」の考え方

  2. 就業規則がないことによるリスクとデメリット

  3. 助成金申請における就業規則の必要性

  4. 賃金規定と就業規則の関係

  5. 「会社の法律」としての就業規則の意義

  6. まとめ:経営者が知っておくべき就業規則のポイント


 

1. 就業規則の作成義務と「常時使用する労働者」の考え方

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません。ここで重要なのは「常時使用する労働者」の定義です。


「常時使用する労働者」とは?

多くの経営者が誤解しているのは、この「常時使用する労働者」の範囲です。以下の点に注意が必要です:

  • パート・アルバイトも期間限定で雇用している場合以外は人数に算入する

  • 社会保険や雇用保険に加入しているかどうかは関係ない

  • 労働契約の形態(正社員、契約社員、パート等)に関わらず、継続的に雇用している労働者は全て算入


つまり、「うちはパートが多いから」「社会保険に入っていない人は数えなくていい」という考え方は誤りであり、実際には就業規則の作成義務があるにもかかわらず、作成していないケースが少なくありません。


2. 就業規則がないことによるリスクとデメリット

就業規則を作成していないことで、企業経営上さまざまなリスクやデメリットが生じます。


懲戒処分の実施不可

最も重大なリスクの一つが、懲戒処分が実施できないことです。例えば:

  • 減給などの制裁を課すことができない

  • 業務命令違反や勤怠不良などに対して、適切な処分ができない

  • 最悪の場合、明らかな非違行為があっても解雇の有効性が否定される可能性がある

労働者の管理において、適切な懲戒処分を行うことができないというのは、経営者にとって大きな不利益となります。


モチベーション管理の困難さ

就業規則に基づく公平な懲戒処分ができないことは、職場のモラル低下にも繋がります:

  • 勤怠不良や業務怠慢などの問題行動を適切に処分できないと、真面目に働く従業員のモチベーションが低下する

  • 「問題を起こしても特に何も起きない」という風潮が広がる可能性がある

  • 結果として職場の生産性や組織風土が悪化する


3. 助成金申請における就業規則の必要性

助成金の申請においても、就業規則は重要な役割を果たします。特に「キャリアアップ助成金」などの申請には、就業規則の整備が前提条件となるケースがあります。

  • キャリアアップ助成金を活用したい場合、労働者の人数にかかわらず就業規則の作成が必要

  • 就業規則に「正社員転換制度」などの規定を盛り込むことが申請要件となることも

  • その他の助成金でも、就業規則の提出を求められるケースが多い


助成金は企業の人材育成や待遇改善に活用できる重要な資金源です。就業規則がないために申請できないというのは、大きな機会損失と言えるでしょう。


4. 賃金規定と就業規則の関係

就業規則には、賃金に関する事項を必ず記載する必要があります。前回の記事で解説した賃金支払いのルールを明確にするためにも、就業規則における賃金規定は重要です。


賃金規定の明確化による効果

  • 給与の計算方法、支払日、支払方法などが明確になる

  • 固定残業代(みなし残業)の取扱いを明確にできる

  • 賞与や退職金の支給条件を明確にできる

  • 入社時点で労働条件を明確に示すことができる


賃金に関するトラブルは労使間のもっとも大きな紛争原因の一つです。就業規則で賃金規定を明確にしておくことで、後々のトラブルを未然に防止することができます。


5. 「会社の法律」としての就業規則の意義

就業規則は単なる社内ルールではなく、「会社の法律」としての性格を持っています。


就業規則の法的効力

  • 労働契約法第7条により、就業規則で定める労働条件は労働契約の内容となる

  • 合理的な内容であれば、労働者の同意がなくても労働条件を変更できる場合がある(労働契約法第9条・第10条)

  • 労働基準法などの法令に違反しない範囲で、会社独自のルールを定めることができる


経営者の理念を反映する手段としての就業規則

就業規則は、経営者が考える「正しい働き方」や「会社の価値観」を明文化し、従業員に伝える重要なツールでもあります:

  • 会社が求める行動規範を明確にできる

  • 評価基準や昇進・昇給の条件を明示できる

  • 福利厚生など、会社独自の制度を規定できる


6. まとめ:経営者が知っておくべき就業規則のポイント

就業規則は単なる法的義務ではなく、会社経営に不可欠なツールです。以下のポイントを押さえておきましょう:

  1. 作成義務の確認

    • パート・アルバイトを含め、常時10人以上の労働者を使用する場合は作成義務あり

    • 社会保険加入の有無は関係ない

  2. 懲戒処分の有効性を確保する

    • 適切な労務管理のために、就業規則に懲戒規定を設ける

    • 懲戒の種類と事由を明確に規定する

  3. 助成金活用のための準備をする

    • キャリアアップ助成金など、就業規則が必要な助成金の活用を検討する

    • 助成金の要件に合わせた規定を盛り込む

  4. 賃金規定を明確にする

    • 前回解説した賃金支払いの原則に沿った規定を設ける

    • 残業代の計算方法や手当の支給条件を明確にする

  5. 会社の方針や理念を反映させる

    • 単なる形式的な書類ではなく、会社の価値観や方針を反映させる

    • 従業員に期待する行動や会社の目指す方向性を示す


就業規則は作成して終わりではなく、定期的に見直し、時代や法改正、会社の成長に合わせて更新していくことが重要です。また、就業規則を作成・変更する際には、労働者の代表の意見を聴くことが法律で義務付けられています(労働基準法第90条)。


次回は「36協定」に関する法令遵守のポイントをご紹介する予定です。


 


必要な時だけ社労士サービス」


みなさんの会社で、顧問契約が本当に正しい選択であるのかを判断することは難しいと考えています。2025年に入って単発の相談が急増しております。弊社はそのご相談に関して、真摯に対応し少しでもお客様のお力になれる方法を模索し、このようなサービスを始めることを決定いたしました。


単発依頼は会社情報が不明でその登録から始める必要があることで、割高になりますが、年間手続き件数によっては経費削減が可能です。


これを機に顧問契約が正しい判断であるかの確認をしてみませんか?






Comments

Rated 0 out of 5 stars.
No ratings yet

Add a rating
bottom of page