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社労士が解説:名称だけでは判断できない!残業単価に含める・含めない手当の判断基準

はじめに

 前回は「残業単価編」として、月平均所定労働日数の変動が残業単価に与える影響と、それに伴う未払い残業代リスクについて詳しく解説しました。今回は「手当編」として、残業単価に含めるべき手当と含めなくてよい手当の判断基準について解説します。

 労働基準法では、残業単価を計算する際に含めるべき賃金と除外できる賃金が明確に定められています。しかし、多くの企業では手当の名称だけで判断してしまい、本来は残業単価に含めるべき手当を除外していることがあります。このような誤った計算方法は、未払い残業代という大きなリスクを生み出す可能性があります。

 本記事では「名称」ではなく「実態」で判断すべき手当の取り扱いについて、具体例を交えながら詳しく解説します。あなたの会社の手当制度を見直す参考にしてください。


目次

  1. 残業単価に含めない手当の法的根拠

  2. 家族手当:名称ではなく支給基準で判断

  3. 通勤手当:実費精算か定額支給かで変わる取扱い

  4. 住宅手当:住宅費用との関連性が重要

  5. 別居手当・子女教育手当:支給目的と実態の確認

  6. 臨時賃金と定期賃金:支払頻度による判断

  7. よくある誤解と実務上の注意点

  8. まとめ:適正な残業単価計算のためのチェックリスト


1. 残業単価に含めない手当の法的根拠

 残業単価の計算は労働基準法第37条に基づき、以下の手当は残業単価の計算から除外できることが定められています:

  • 家族手当

  • 通勤手当

  • 住宅手当

  • 別居手当

  • 子女教育手当

  • 臨時に支払われる賃金

  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 しかし、これらの手当であっても、その「名称」だけでなく「実態」によって判断する必要があります。名称が同じでも実態が異なれば、残業単価に含めなければならない場合があるのです。


2. 家族手当:名称ではなく支給基準で判断

 家族手当は扶養家族の有無やその人数によって支給額が変わる場合に限り、残業単価から除外できます。


残業単価に含まれないもの(〇)

  • 配偶者、子供2人の場合:配偶者10,000円、子供1名につき5,000円、合計20,000円


残業単価に含めるべきもの(×)

  • 家族人数にかかわらず一律に20,000円を支給


 一律支給の場合は「家族手当」という名称であっても、実質的には基本給の一部と見なされるため、残業単価に含める必要があります。つまり、従業員の個別事情に応じて金額が変動する場合のみ除外できるのです。


3. 通勤手当:実費精算か定額支給かで変わる取扱い

 通勤手当は実際の通勤に要した費用や通勤距離に応じて支給額が決まる場合に限り、残業単価から除外できます。


残業単価に含まれないもの(〇)

  • 1か月の電車定期券実費15,000円を支給


残業単価に含めるべきもの(×)

  • 出勤1日につき一律300円を支給


 通勤実態とは無関係に一律支給される場合は、実質的に労働に対する対価と見なされるため、残業単価に含める必要があります。


4. 住宅手当:住宅費用との関連性が重要

 住宅手当は実際の住宅費用(住宅ローンや家賃)に応じて算出される場合に限り、残業単価から除外できます。


残業単価に含まれないもの(〇)

  • 住宅ローンや家賃の一定比率(例:80%、上限30,000円)を支給


残業単価に含めるべきもの(×)

  • 持ち家の場合10,000円、賃貸の場合20,000円を一律支給


 住宅の種類によって金額が決まっていても、実際の費用との関連性がない場合は、実質的に基本給の一部と見なされるため、残業単価に含める必要があります。


5. 別居手当・子女教育手当:支給目的と実態の確認

 これらの手当も、支給目的と実態が一致しているかどうかで判断されます。


別居手当

残業単価に含まれないもの(〇)

  • 東京営業所から大阪営業所に転勤となり、単身赴任している場合


残業単価に含めるべきもの(×)

  • 週2回程度、片道2時間の現場に行くのが大変なので近くにアパートを借りて一人で住んでいる場合


 通勤の都合により同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされる従業員に対して、世帯が二分されることによる、生活費の増加を補うために支給される手当をいいます。毎日通勤に掛かる時間が往復4時間以上である場合など、具体的理由により別居が余儀なくされていると判断されない場合には、残業単価に含める必要があります。


子女教育手当

 この手当は、元々在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律」に基づいているため民間企業では支給義務がなく、子供の養育費等を支援する目的で支給される場合に限り除外できます。主に海外勤務があり、家族と共に転勤を余儀なくされる場合など、大手企業の海外支社等がある企業が採用していることが多いため、一般的な企業では稀なケースです。


6. 臨時賃金と定期賃金:支払頻度による判断

支払頻度も重要な判断基準となります。


臨時に支払われる賃金

残業単価に含まれないもの(〇)

  • 結婚をしたことを祝って1回のみ支払う結婚祝金

  • 慶弔見舞金、傷病手当金など特別な事情に応じて臨時に支給されるもの


残業単価に含めるべきもの(×)

  • 「結婚手当」という名目で、結婚している従業員に毎月支給されるもの


一時的なイベントや事情に対して臨時に支給される場合のみ除外可能です。


1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

残業単価に含まれないもの(〇)

  • 3か月間にすべて出勤した場合に支給される四半期ごとの皆勤手当

  • 年に1回支給される勤続手当


残業単価に含めるべきもの(×)

  • 1か月間にすべて出勤した場合に毎月支給される皆勤手当


 支給間隔が1か月を超える場合のみ除外可能で、毎月支給される場合は残業単価に含める必要があります。


7. よくある誤解と実務上の注意点

企業の労務管理において、以下のような誤解や見落としが多く見られます:

誤解1:名称だけで判断している

「家族手当」という名称だけで残業単価に含めていないケースが多いですが、実態として家族の有無や人数に関わらず一律支給している場合は、残業単価に含めるべきです。


誤解2:就業規則と実態が異なる

就業規則には「通勤に要する実費を支給する」と記載されているのに、実態としては一律支給しているケースがあります。この場合、就業規則と実態が異なるため、残業単価に含める必要があります。


誤解3:手当の性質が時間の経過で変化している

制度導入時は実費精算だった通勤手当が、処理の都合上いつの間にか定額支給に変わっているケースがあります。このような場合、残業単価の計算方法も見直す必要があります。


 基本的に給与計算の効率化を考え、この方法なら毎月変わらずに支給が可能などといった理由により、いつの間にか変更されているケースも多く見られます。給与、社会保険、労働保険など算定に含める手当に違いがある中で、独自に支給要件を変更してしまうと後々のトラブルへと発展する場合もあります。


8. まとめ:適正な残業単価計算のためのチェックリスト

残業単価に含めるべき手当か否かを判断するための実務上のポイントをまとめると:

  1. 名称ではなく実態で判断する

    • 手当の名称だけで判断せず、支給基準や条件を確認する

    • 一律支給の場合は、原則として残業単価に含める


  2. 各手当の具体的確認項目

    • 家族手当:扶養家族の有無や人数によって金額が変わるか

    • 通勤手当:実際の通勤費用や距離に応じて支給されるか

    • 住宅手当:実際の住宅費用との関連性があるか

    • 別居手当:会社都合による単身赴任に対する補助か

    • 臨時賃金:特別な事情に応じて一時的に支給されるものか

    • 定期賃金:支給間隔が1か月を超えるか


  3. 就業規則と実態の整合性確認

    • 就業規則や賃金規程の記載内容と実際の運用が一致しているか

    • 不一致がある場合は、どちらかに合わせる対応が必要


  4. 過去の未払いリスクの確認

    • 現在の手当の取扱いが適正でない場合、過去の未払い残業代の有無を確認

    • 必要に応じて遡及清算の検討(現在の時効は3年間)


 正確な残業単価の計算は、労務コンプライアンスの基本であると同時に、従業員の信頼を得るための重要な要素です。「名称」ではなく「実態」に基づいた適正な判断を心がけましょう。


次回予告:給与計算を効率化!自動計算できる給与体系の立案方法

 次回は、これまでの投稿内容を基に「自動計算できる給与体系の立案方法」について詳しく解説します。残業単価の計算やさまざまな手当の取扱いを踏まえた、効率的かつ適法な給与体系の設計ポイントや、給与計算システムの活用方法について具体的に見ていきます。労務管理の効率化と正確性向上に役立つ内容となっていますので、お楽しみに!




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