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社労士が解説:給与計算を自動化する6つのステップ!無駄を省き効率化を実現

はじめに

 これまでの記事では、残業単価を一定に保つための年間出勤日数の管理方法、残業単価に含めるべき手当と含めない手当の判断基準、さらには給与支払いの5原則や36協定について詳しく解説してきました。これらの解説は、法律を正しく理解した上で、給与計算における「ムリ・ムダ・ムラ」を省くための布石でした。

 今回は、これまでの知識を踏まえた上で、給与計算業務をほぼ自動化するための具体的なステップについて解説します。適切な仕組みを構築することで、毎月の給与計算業務にかかる時間を大幅に削減し、人的ミスも防ぐことができます。さらに、給与計算業務をアウトソーシングしている企業にとっては、コスト削減にもつながる実践的な内容となっています。


目次

  1. 給与計算自動化のメリットとデメリット

  2. 自動化実現のための6ステップ

  3. ステップ①:年間出勤日数を一定にする実践法

  4. ステップ②:固定割増賃金制度の導入と運用

  5. ステップ③:手当の実態把握と賃金規定のマッチング

  6. ステップ④:正しい労務管理と固定割増賃金の時間管理

  7. ステップ⑤:クラウド型勤怠システムへの移行

  8. ステップ⑥:勤怠システム連動型給与計算システムの導入

  9. まとめ:自動化実現のためのロードマップ


1. 給与計算自動化のメリットとデメリット

メリット

  • 業務時間の大幅削減: 毎月の給与計算業務が数時間から数分へ

  • 人的ミスの防止: 手作業による計算ミスや転記ミスの排除

  • コスト削減: 社内の人件費や外部委託費の削減

  • リアルタイム性の向上: 勤怠データの即時反映と給与シミュレーション

  • コンプライアンスの強化: 法令に準拠した計算の自動化


デメリット

  • 初期設定の手間: システム構築と設定に時間がかかる

  • システム導入コスト: 初期投資が必要

  • 運用ルールの整備: 社内規定の見直しや整備が必要


 これらのデメリットは一時的なものであり、長期的に見れば自動化によるメリットが大きく上回ります。特に、法改正や制度変更に対応するための手間が大幅に削減されることも重要なポイントです。


2. 自動化実現のための6ステップ

 給与計算を自動化するための6つのステップを紹介します。これらのステップは、必ずしも順番通りに実施する必要はありませんが、すべてを実施することで高いレベルの自動化が実現できます。

  1. 年間出勤日数を一定にする

  2. 固定割増賃金制度を導入する

  3. 手当の実態把握と賃金規定などとのマッチング

  4. 正しい労務管理と固定割増賃金相当時間数の管理

  5. 勤怠管理をクラウド型勤怠システムに移行する

  6. 勤怠システム連動型給与計算システムを導入する

それぞれのステップについて、実践的な方法と注意点を解説します。


3. ステップ①:年間出勤日数を一定にする実践法

 前回の記事でも触れましたが、年間出勤日数を一定にすることで、残業単価の変動を防ぐことができます。これにより、給与計算の自動化が格段に容易になります。


実践のポイント

  • 年間カレンダーの戦略的設計:

    • 基本的な休日設定(土日祝日など)を明確にする

    • 年によって変動する祝日や暦の関係を考慮する

    • 閏年対応も忘れずに行う

  • 特別休暇制度の活用:

    • 年間出勤日数が多くなる年には、特別休暇を設定する

    • 「会社創立記念日」「リフレッシュ休暇」など、名目は自由に設定可能

    • 例:2024年(閏年)は2月29日を「特別休暇」とする

  • 就業規則への明記:

    • 「年間所定労働日数は○○日とする」と明記する

    • 特別休暇の付与基準も明確に規定する


 年間出勤日数を一定にすることで、月平均所定労働時間も一定になり、残業単価の計算も毎年同じになります。これは自動化の基盤となる重要なステップです。


4. ステップ②:固定割増賃金制度の導入と運用

 固定割増賃金制度とは、一定時間分の残業代をあらかじめ基本給に含めて支給する制度です。適切に運用することで、毎月の変動残業代計算の手間を大幅に削減できます。

導入のポイント

  • 対象となる従業員の選定:

    • 毎月一定時間以上の残業が見込まれる従業員に適用

    • 管理監督者や裁量労働制適用者は対象外

  • 固定時間数の設定:

    • 過去の実績に基づいた適切な時間数を設定

    • 例:月20時間分の残業代を固定支給

  • 賃金規定への明記:

    • 基本給○○円には、時間外労働○○時間分の割増賃金△△円を含む」と明記

    • 固定時間を超えた場合の計算方法も明記

  • 労働条件通知書への記載:

    • 採用時や制度変更時に従業員へ明示

    • 同意の取得も忘れずに


 固定割増賃金制度を導入することで、一定時間までの残業代計算が不要になり、その分の給与計算業務が効率化されます。ただし、実際の労働時間が固定時間を下回った場合でも固定額を支払う必要があるため、適切な時間設定が重要です。


5. ステップ③:手当の実態把握と賃金規定のマッチング

 前回の記事で解説したように、手当の名称と実態が一致していない場合、残業単価の計算に誤りが生じる可能性があります。自動化を進める前に、手当の実態を把握し、賃金規定との整合性を確保することが重要です。

実践のポイント

  • 現状の手当体系の棚卸し:

    • すべての手当について、名称と実態を確認

    • 残業単価に含めるべきか否かを判断

  • 賃金規定の見直し:

    • 実態に合わせて規定を修正

    • または、実態を規定に合わせて運用を変更

  • 手当の整理・統合:

    • 複雑な手当体系を簡素化

    • 例:複数の手当を「業務手当」などに統合

  • 残業単価計算の明確化:

    • どの手当を残業単価に含めるかを明確に規定

    • 給与計算システムの設定にも反映


 手当体系を整理し、賃金規定と実態を一致させることで、給与計算の自動化がスムーズに進みます。また、未払い残業代リスクも低減できます。


6. ステップ④:正しい労務管理と固定割増賃金の時間管理

 自動化を成功させるには、正確な労働時間管理が不可欠です。特に固定割増賃金制度を導入している場合、固定時間を超えた労働時間の管理が重要になります。

実践のポイント

  • 労働時間の正確な記録:

    • 出退勤時刻を客観的に記録する方法の導入

    • ICカードやスマートフォンアプリの活用

  • 固定時間と実労働時間の比較:

    • 固定割増賃金の対象時間と実際の残業時間を比較

    • 固定時間を超えた場合の追加支給管理

  • 36協定の遵守確認:

    • 月間・年間の上限時間を超えていないか確認

    • 特別条項の適用状況も管理

  • 労働時間データの一元管理:

    • 部門や拠点ごとにバラバラの管理を避ける

    • 全社的な労働時間データベースの構築


 正確な労働時間管理によって、給与計算の自動化だけでなく、労務リスクの低減にも繋がります。また、従業員の健康管理の観点からも重要な取り組みです。


7. ステップ⑤:クラウド型勤怠システムへの移行

 紙のタイムカードや Excel での勤怠管理から、クラウド型勤怠システムへの移行は、給与計算自動化の大きな一歩となります。

導入のポイント

  • 適切なシステム選定:

    • 会社の規模や業種に合ったシステムを選択

    • 使いやすさとコストのバランスを考慮

    • 給与計算システムとの連携可能性を確認

  • 勤怠ルールの設定:

    • 就業時間、休憩時間、残業申請フローなどを設定

    • 36協定の上限時間アラート機能も活用

  • 従業員への教育:

    • システムの使い方を丁寧に説明

    • 移行期間中は旧システムとの並行運用も検討

  • データ活用の仕組み作り:

    • 勤怠データを活用した労務分析

    • 部門別・個人別の残業時間傾向把握


 クラウド型勤怠システムの導入により、リアルタイムでの勤怠状況把握が可能になるだけでなく、給与計算システムとの連携によって大幅な業務効率化が実現します。


8. ステップ⑥:勤怠システム連動型給与計算システムの導入

 最後のステップは、勤怠システムと連動する給与計算システムの導入です。この連動によって、勤怠データが自動的に給与計算に反映され、手作業による転記ミスなどが解消されます。

導入のポイント

  • システム選定の基準:

    • 勤怠システムとの連携機能の確認

    • 社会保険料計算や年末調整機能の有無

    • データ出力形式(給与明細、銀行振込データなど)

  • マスタ設定の重要性:

    • 従業員情報、給与体系、税率などの正確な設定

    • 手当の計算ルールの明確化

  • テスト運用の実施:

    • 本格導入前に一部の従業員でテスト

    • 手計算との比較で正確性を確認

  • 運用ルールの整備:

    • 給与計算の承認フロー

    • 例外処理の対応方法

    • 定期的なデータバックアップ


 勤怠システムと給与計算システムの連動により、給与計算業務の大部分が自動化され、人的リソースを他の重要な業務に振り向けることが可能になります。


9. まとめ:自動化実現のためのロードマップ

 給与計算の自動化は、一朝一夕に実現するものではありません。計画的に進めることが重要です。以下のようなロードマップを参考にしてください。

短期的取り組み(3か月以内)

  • 現状の給与計算プロセスの棚卸し

  • 手当体系の整理と賃金規定の見直し

  • 年間カレンダーの策定と特別休暇制度の検討

中期的取り組み(6か月以内)

  • 固定割増賃金制度の導入準備

  • クラウド型勤怠システムの選定と導入

  • 労働時間管理の適正化

長期的取り組み(1年以内)

  • 給与計算システムの導入と勤怠システムとの連携

  • 全社的な運用ルールの整備

  • 定期的な運用状況の確認とシステム改善


 初期設定に時間はかかりますが、そこさえクリアできれば毎月の無駄な時間が大幅に削減され、アウトソーシングしている場合は経費削減にもつながります。また、正確な給与計算による従業員満足度の向上や、労務リスクの低減といった副次的効果も期待できます。


次回予告:知っているようで知らない!労務管理の基本編

 次回からは、「労務管理の基本編」として、労務管理という言葉は知っているものの、具体的に何をするのかわからない方向けに、基本的な知識と実践方法を数回に分けて解説していきます。労務管理の適正化は、給与計算の自動化を支える重要な基盤となりますので、ぜひお楽しみに!




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