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36協定は本当に「無料特典」なのか?年1回の手続きを冷静に分析

 前回は、「法改正についていけない」という営業トークの実態を検証しました。今回は、顧問契約の営業で必ずと言っていいほど出てくる「特典」について掘り下げます。

「顧問先様には、36協定の作成から労働基準監督署への提出まで無料でサービスさせていただきます」

 この「無料」という言葉に魅力を感じた経営者は多いはずです。しかし、本当にお得な特典なのでしょうか?年1回の手続きのために、毎月顧問料を支払う価値があるのか、冷静に分析してみましょう。

目次

  1. 36協定とは何か?基本の確認

  2. 顧問契約での「無料特典」の実態

  3. 36協定手続きの実際の作業量

  4. 単発依頼との費用比較

  5. 「無料」に隠れたコストの真実

1. 36協定とは何か?基本の確認

36協定の基礎知識

 36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条に基づく労使協定です。

必要性

  • 従業員に時間外労働や休日労働をさせる場合に必要

  • 労働基準監督署への届出が義務

  • 届出なしで残業させると労働基準法違反


対象企業

  • 時間外労働が発生する全ての企業

  • 従業員数に関係なく必要

  • つまり、ほぼ全てのスタートアップ企業で必要


手続きの頻度

  • 年1回の届出(有効期間は通常1年間)

  • 届出時期は企業ごとに設定可能(多くは4月)

  • 更新を忘れると労働基準法違反のリスク


手続きの内容

正しい36協定の手続きには、以下が全て必要です:

  1. 36協定書(労使協定書)の作成

  2. 労働者代表の選出

  3. 労使間での協定締結(協定書への署名・押印)

  4. 36協定届の作成

  5. 労働基準監督署への届出

  6. 従業員への周知


重要:36協定書と36協定届は別の書類です

  • 36協定書:会社と労働者代表が締結する労使協定書(社内保管)

  • 36協定届:労働基準監督署に提出する届出書

両方が揃って初めて適法な手続きとなります。


2. 顧問契約での「無料特典」の実態

営業時の説明

社労士事務所の営業では、このように説明されます:

「36協定は毎年必ず必要な手続きです」 「作成から提出まで、通常は40,000円(弊社の単発手続きの場合)程度かかります」 「しかし、顧問契約を結んでいただければ、これが無料になります」 「年間40,000円の節約になりますので、お得ですよ」


「無料」の条件

多くの社労士事務所では、以下の条件が付いています:

対応範囲の実態

実は、ここに重大な問題が潜んでいます。

多くの社労士事務所が「36協定無料作成」と言っているのは、実際には:

  • 36協定届(労働基準監督署に提出する届出書)のみ

  • 36協定書(労使協定書)は含まれていない


36協定届と36協定書の違い

この違いを理解していない社労士も実は多く存在します:

36協定書(労使協定書)

  • 会社と労働者代表が締結する協定書

  • これが本来の「労使協定」

  • 署名・押印が必要

  • 社内で保管するもの

36協定届

  • 労働基準監督署に提出する届出書

  • 協定書の内容を届け出るための書類

  • 様式が法定されている

重要な点:36協定書がなければ、36協定届を提出しても法令違反


つまり、多くの顧問契約の「無料特典」は:

  • 36協定届の作成・提出のみ

  • 本来必要な36協定書(労使協定書)は含まれていない

  • これでは労使協定を締結せずに届出だけしている状態

  • 法令違反を免れない不完全なサービス


その他の制限

  • 標準的な内容のみ:特殊な条項は別途費用

  • 変更がない場合のみ:前年と同じ内容に限る

  • 簡易版のみ:複雑な時間外設定は別途費用

  • 労働者代表の選出は企業側で実施


顧問先での実態

実際に顧問契約を結んでいる企業の状況:

  • 前年と全く同じ内容で更新するケースがほとんど

  • 実質的な作業:前年の書類の日付と労働者代表名を変更するのみ

  • 所要時間:社労士側の作業は10~15分程度

しかし、これで「40,000円相当の特典」として提示されるのです。


3. 36協定手続きの実際の作業量

社労士側の実際の作業

36協定作成の実務を分解すると:

初回作成(新規企業)- 適切な対応の場合

  1. 企業の労働時間制度のヒアリング:30分

  2. 36協定書(労使協定書)の作成:20分

  3. 36協定届の作成:20分

  4. 記載内容の説明:15分

  5. 労働者代表選出方法の説明:10分

  6. 労働基準監督署への提出:15分

  7. 合計:約110分(1時間50分)

2回目以降(更新)- 適切な対応の場合

  1. 前年の協定書・届出を確認:5分

  2. 36協定書の日付と労働者代表名の変更:5分

  3. 36協定届の日付と労働者代表名の変更:5分

  4. 内容確認の連絡:5分

  5. 労働基準監督署への提出:15分

  6. 合計:約35分

不適切な対応(36協定届のみ作成)の場合

  1. 前年の届出を確認:5分

  2. 36協定届の日付と労働者代表名の変更:5分

  3. 労働基準監督署への提出:15分

  4. 合計:約25分

注意:36協定書を作成せず36協定届のみの対応は法令違反です


企業側の作業

企業側でも一定の作業が必要です:

  1. 労働者代表の選出(選挙または挙手)

  2. 協定書への署名・押印

  3. 従業員への周知

これらは顧問契約の有無に関わらず必要な作業です。


作業の標準化

36協定は法定様式が決まっていますが、注意が必要です:

  • 36協定届:厚生労働省の様式を使用

  • 36協定書:様式は自由だが内容は届出と一致させる必要

  • 記載項目は定型的だが、書類は2種類必要

  • 社労士でも混同している人が多い重要なポイント

 実は、多くの社労士が36協定届だけを作成し、36協定書(労使協定書)を作成していないケースが存在します。これは重大な法令違反です。

 顧問契約の「無料特典」で36協定届だけを作成している場合、企業は知らないうちに法令違反の状態に置かれている可能性があります。


4. 単発依頼との費用比較

適正な料金体系

適切に36協定書と36協定届の両方を作成する場合の単発料金:

36協定の適正な料金内訳

  • 36協定書(労使協定書)の作成:20,000円(初回作成時のみ

  • 36協定届の作成:10,000円

  • 労働基準監督署への届出:10,000円

  • 合計:40,000円

この料金には、適法な手続きに必要な全ての書類作成と届出が含まれます。


費用の具体的比較

36協定のコストを冷静に分析してみましょう。

顧問契約の場合

  • 月額顧問料:17,500円×12ヶ月=210,000円

  • 36協定:無料(特典)

  • 年間費用:210,000円

36協定の「無料」のために年間21万円を支払っている計算です。

単発契約の場合

  • 36協定(協定書・届出・提出込み):40,000円※

         ※(初回のみ。翌年からは届出作成提出費用20,000円のみ)

  • その他の業務:必要時のみ

  • 年間費用(36協定のみなら):40,000円


実質的なコスト

顧問契約で「無料」と言われる36協定の実質コスト:

  • 年間顧問料210,000円のうち、36協定分を按分すると

  • 他の業務(年間10件程度)で割っても、1業務あたり約21,000円

  • 「無料」と言いながら、実質21,000円のコストを負担

単発契約の40,000円と比較しても、年間で見れば:

  • 顧問契約:210,000円(36協定含む)

  • 単発契約:40,000円(36協定のみ)

  • 差額:170,000円(2年目からは190,000円の差額


「お得感」の錯覚

営業トークの構造:

  1. 「通常40,000円の作業が無料」と強調

  2. 月額顧問料については「様々なサービスが含まれる」とぼかす

  3. 結果として「40,000円得した」と錯覚させる

実際には:

  • 顧問料として年間21万円を支払っている

  • 36協定は別途費用ではないだけで「無料」ではない

  • 年間で見れば単発依頼の方が17万円(翌年からは19万円)も安い


5. 「無料」に隠れたコストの真実

年1回の手続きに年間21万円

冷静に考えてみましょう:

  • 36協定は年1回の手続き

  • 適正な単発料金は40,000円

  • それに対して年間21万円の固定費

36協定だけで考えれば、年間17万円の過剰支出


本当に「特典」なのか?

顧問契約の「特典」を検証すると:

特典として提示されるもの

  • 36協定無料作成(40,000円相当)

  • 法改正情報の提供

  • いつでも相談可能

実態

  • 36協定:年間21万円の固定費の中に含まれるだけ、しかも36協定届のみで36協定書が含まれていないケースが多い

  • 法改正情報:ネットで無料入手可能

  • 相談:実際にはほとんど利用しない

さらに問題なのは、「無料特典」で提供される36協定が不完全(36協定届のみ)で、法令違反の状態になっている可能性があることです。

本来40,000円で適法かつ完全な対応が受けられるものを、年間21万円支払って不完全な対応を受けている可能性すらあるのです。


合理的な選択

36協定の手続きだけを考えた場合:

顧問契約の場合

  • 年間コスト:210,000円

  • 36協定分の実質負担:210,000円

  • その他業務:年間10件程度発生する場合のみ妥当

単発契約の場合

  • 年間コスト:40,000円(36協定書・36協定届・届出の全てを含む)

  • その他業務:必要な時だけ追加

  • 適法で完全な対応、かつ柔軟で無駄のない支出


「無料特典」に隠れた危険性

顧問契約の「36協定無料作成」には、コストの問題だけでなく法令遵守の問題も潜んでいます:

確認すべきポイント

もし現在顧問契約を結んでいる場合、以下を確認してください:

  1. 36協定書(労使協定書)を受け取っているか?

  2. 36協定届だけではないか?

  3. 両方の書類が揃っているか?

もし36協定届しか受け取っていない場合、労使協定を締結せずに届出だけしている法令違反の状態です。


「安心」のコストパフォーマンス

「専門家に任せている安心」のコスト:

  • 顧問契約:年間21万円(36協定が不完全な可能性あり)

  • 単発契約:年間4万円(適法かつ完全な対応)

差額17万円が、本当に「安心」に値する金額でしょうか? むしろ、単発契約の方が適法で確実な対応が受けられる可能性が高いのです。


スタートアップの資金効率

年間17万円の差額を事業に投資したら:

  • マーケティング費用として活用

  • 採用活動の強化

  • 設備投資やシステム導入

  • 従業員の福利厚生向上

企業成長にとって、どちらがより価値があるかは明白です。


まとめ

「36協定無料作成」という特典を冷静に分析した結果:

  1. 適正な単発料金は40,000円(36協定書・36協定届・届出込み)

  2. 年間21万円の固定費で「無料」は錯覚、年間17万円の過剰支出

  3. 多くの場合、36協定届のみで36協定書が含まれていない不完全な対応

  4. 36協定書なしの届出は法令違反を免れない

  5. 単発契約なら4万円で適法かつ完全なサービスが受けられる

  6. 差額17万円は事業成長への投資資金になる

 特に重要なのは、「無料特典」として提供される36協定が、実は不完全で法令違反の状態になっている可能性があるという点です。

 36協定書(労使協定書)と36協定届は別物であり、両方が揃って初めて適法です。この違いを理解していない社労士も多く存在するため、顧問契約を結んでいても安心できません。

 本来40,000円で適法かつ完全な対応が受けられるものを、年間21万円支払って不完全な対応を受けている可能性すらあります。


 「無料」という言葉に惑わされず、年間の総コストと実際に受けるサービスの内容と適法性を冷静に確認することが重要です。

 次回は「助成金の真実」について検証します。「顧問契約がないと助成金は申請できない」という営業トークの実態に迫ります。


次回予告 「第5回:助成金は本当に顧問契約が必要?スタートアップに必要ない助成金の実態」

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