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助成金は本当に顧問契約が必要?スタートアップに必要ない助成金の実態

 前回は、36協定の「無料特典」の実態を検証しました。今回は、顧問契約の営業で頻繁に使われる「助成金」というキーワードについて掘り下げます。

 「助成金の申請は、顧問契約を結んでいる企業様以外では受け付けられません」 「顧問契約を結んでいないと、助成金の情報が入手できませんよ」

 この言葉で顧問契約を決めた経営者は少なくないはずです。しかし、本当に顧問契約が必要なのでしょうか?そして、スタートアップにとって助成金は本当に必要なものなのでしょうか?

目次

  1. 助成金とは何か?基本の理解

  2. 「顧問契約限定」という制限の実態

  3. 助成金の申請要件の厳しさ

  4. スタートアップが助成金を活用できない理由

  5. 助成金申請の本当のコストとリスク

1. 助成金とは何か?基本の理解

助成金の基礎知識

助成金の財源

重要な事実:助成金は雇用保険料から賄われています

  • 企業が毎月支払う雇用保険料の一部

  • 労働者の労働条件向上のための制度

  • つまり、企業自身が納めたお金が原資


助成金の目的

助成金は、以下のような目的で設計されています:

  • 雇用の維持・創出

  • 労働環境の改善

  • 人材育成の促進

  • ワークライフバランスの実現


主な助成金の種類

  • キャリアアップ助成金

  • 人材開発支援助成金

  • 両立支援等助成金

  • 雇用調整助成金

  • 特定求職者雇用開発助成金


助成金の特徴

  • 後払い制先に投資が必要

  • 要件が厳格:細かい条件クリアが必須

  • 審査期間が長い:数ヶ月~1年程度

  • 労働条件改善が前提:単なる金銭給付ではない


2. 「顧問契約限定」という制限の実態

営業時の説明

社労士事務所の営業では、このように説明されます:

「助成金の申請は、企業の労務管理状況を継続的に把握している必要があります」 「顧問契約を結んでいないと、適切な申請ができません」 「多くの社労士事務所では、顧問先様限定で助成金申請を受け付けています」 「助成金を受給できれば、顧問料の元が取れますよ」


「顧問契約限定」の理由

社労士事務所が顧問契約限定にする本当の理由:

表向きの理由

  • 継続的な労務管理状況の把握が必要

  • 適切な書類整備のため

  • 不正受給防止のため

実際の理由

  1. 顧問契約を獲得するための営業ツール

  2. 単発では採算が合わない作業量

  3. リスク回避(不支給の場合のクレーム対策)

  4. 安定収入の確保(助成金は不確実、顧問料は確実)


他の社労士に依頼できるのか?

実は、助成金申請は:

  • どの社労士でも申請代行可能

  • 顧問契約の有無は法的要件ではない

  • 単発で助成金申請のみを受ける社労士も存在する

つまり、「顧問契約限定」は法的な制約ではなく、各事務所の方針に過ぎません。


3. 助成金の申請要件の厳しさ

助成金申請の大前提

助成金を申請するには、以下の大前提があります:

労働関係法令の遵守

  • 労働基準法の完全遵守

  • 最低賃金法の遵守

  • 労働安全衛生法の遵守

  • 労働保険・社会保険の適正な加入と納付

一つでも違反があれば、申請すらできません


労働条件の文書化

  • 就業規則の整備(10名未満でも実質必要な助成金もある)

  • 雇用契約書の適切な作成

  • 労働条件通知書の交付

  • 賃金台帳の適正な記録

  • 出勤簿の適正な管理


助成金ごとの個別要件

各助成金には、さらに細かい要件があります:

キャリアアップ助成金の例

  • 正社員転換の計画策定

  • 6ヶ月以上の有期雇用実績

  • 転換後の賃金増額(3%以上または5%以上)

  • 就業規則への規定

  • 転換前後の労働条件の明確化


実際の申請難易度

多くの経営者が気づかない現実:

  1. 事前準備に数ヶ月かかる

  2. 細かい書類整備が必須

  3. 労働条件の実態改善が前提

  4. 一つのミスで不支給

  5. 受給まで1年以上かかることも


4. スタートアップが助成金を活用できない理由

スタートアップの実態と助成金要件のミスマッチ

理由1:労務管理の体制が整っていない

スタートアップの現実:

  • 就業規則が未整備(整備しなくても申請可能な助成金もある)

  • 労働時間管理が曖昧

  • 雇用契約書が簡易的

  • 賃金台帳の記録が不完全

これらを整備するだけで、相当なコストと時間がかかります。


理由2:労働条件改善の余裕がない

助成金の多くは「労働条件の改善」が前提:

  • 賃金の引き上げ

  • 正社員への転換

  • 教育訓練の実施

  • 福利厚生の充実

スタートアップには、これらを実施する資金的余裕がないことがほとんどです。


理由3:先行投資が必要

助成金は「後払い制」:

  • まず自己資金で労働条件改善を実施

  • その後、書類を整えて申請

  • 審査後、数ヶ月~1年後に入金

キャッシュフローが厳しいスタートアップには不向き


理由4:対象となる助成金が限定的

従業員数3~10名程度のスタートアップでは:

  • 大型助成金の多くが対象外

  • 要件を満たせる助成金は限定的

  • 受給額が少ない(数十万円程度)


理由5:本業への影響

助成金申請には:

  • 計画書の作成

  • 細かい書類の整備

  • 労働条件の変更手続き

  • 定期的な報告義務

これらに時間を取られ、本業がおろそかになるリスク


5. 助成金申請の本当のコストとリスク

助成金申請にかかるコスト

社労士への報酬

一般的な報酬体系:

  • 着手金:5万円~10万円

  • 成功報酬:受給額の15%~30%

例:50万円の助成金を受給した場合

  • 着手金:5万円

  • 成功報酬:50万円×20%=10万円

  • 合計:15万円

  • 実質受給額:35万円


労務整備のコスト

助成金申請のための準備:

  • 就業規則の作成・変更:10万円~30万円

  • 雇用契約書の整備:数万円

  • 労働時間管理システムの導入:数万円~数十万円

  • その他書類整備:数万円

準備だけで20万円~50万円かかることも


時間コスト

経営者や担当者の時間:

  • 社労士との打ち合わせ:数時間

  • 書類作成への協力:数十時間

  • 労働条件変更の社内調整:数十時間

時間コストを考慮すると、本業への影響は大きい


助成金申請のリスク

リスク1:不支給のリスク

  • 要件を満たしていると思っても不支給

  • 細かいミスで不支給

  • 着手金は返還されない


リスク2:労働条件固定のリスク

  • 助成金申請のために変更した労働条件

  • 受給後も簡単には変更できない

  • 経営環境の変化に対応しにくくなる


リスク3:調査・監査のリスク

  • 受給後も数年間、書類保管義務

  • 労働局の調査対象になる可能性

  • 不正が発覚すれば返還請求と罰則


リスク4:機会損失のリスク

  • 助成金申請に時間を取られる

  • その間、本業の機会を逃す

  • 結果的に、助成金額以上の損失


コストとリターンの冷静な分析

ケース1:キャリアアップ助成金(50万円)

  • 労務整備費用:30万円

  • 社労士報酬:15万円

  • 時間コスト:経営者20時間(時給換算10万円)

  • 総コスト:55万円

  • 受給額:50万円

  • 実質:5万円の赤字(弊社試算)


ケース2:人材開発支援助成金(30万円)

  • 教育訓練費用:20万円(先行投資)

  • 労務整備費用:10万円

  • 社労士報酬:10万円

  • 時間コスト:経営者10時間(時給換算5万円)

  • 総コスト:45万円

  • 受給額:30万円

  • 実質:15万円の赤字(弊社試算)


顧問契約と助成金の関係

営業トークの検証

「助成金を受給できれば、顧問料の元が取れます」

実際の計算:

  • 年間顧問料:21万円

  • 助成金受給額:50万円(仮定)

  • 社労士報酬:15万円

  • 労務整備費用:30万円

  • 実質受給額:5万円(弊社試算)

顧問料の元は取れません


真実

  • 助成金は顧問契約の正当化には使えない

  • 受給できても、コストを考慮すると赤字

  • そもそも受給できる可能性が低い


まとめ

「助成金は顧問契約が必要」という営業トークを検証した結果:

  1. 助成金は雇用保険料が財源で、労働条件改善が前提

  2. 「顧問契約限定」は法的要件ではなく、営業戦略

  3. 申請要件が非常に厳格で、スタートアップには不向き

  4. 先行投資が必要で、キャッシュフローに悪影響

  5. 総コストを考慮すると、赤字になるケースが多い

  6. 本業への影響を考えると、機会損失のリスクが大きい

特に重要なのは、助成金は「タダでもらえるお金」ではなく、労働条件改善のための後払い補助金だということです。

スタートアップが本当に考えるべきは:

  • 助成金の受給ではなく

  • 事業成長への投資

  • 本業でのキャッシュフロー改善

  • 顧客獲得と売上拡大

年間21万円の顧問料と助成金申請のコスト(数十万円)を、事業成長に投資する方が遥かに効果的です。


次回は、これまでの検証を踏まえて「では、本当に顧問契約が必要な企業とは?」について考察します。

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