助成金は本当に顧問契約が必要?スタートアップに必要ない助成金の実態
- 代表 風口 豊伸

- 6 日前
- 読了時間: 7分
前回は、36協定の「無料特典」の実態を検証しました。今回は、顧問契約の営業で頻繁に使われる「助成金」というキーワードについて掘り下げます。
「助成金の申請は、顧問契約を結んでいる企業様以外では受け付けられません」 「顧問契約を結んでいないと、助成金の情報が入手できませんよ」
この言葉で顧問契約を決めた経営者は少なくないはずです。しかし、本当に顧問契約が必要なのでしょうか?そして、スタートアップにとって助成金は本当に必要なものなのでしょうか?
目次
助成金とは何か?基本の理解
「顧問契約限定」という制限の実態
助成金の申請要件の厳しさ
スタートアップが助成金を活用できない理由
助成金申請の本当のコストとリスク
1. 助成金とは何か?基本の理解
助成金の基礎知識
助成金の財源
重要な事実:助成金は雇用保険料から賄われています
企業が毎月支払う雇用保険料の一部
労働者の労働条件向上のための制度
つまり、企業自身が納めたお金が原資
助成金の目的
助成金は、以下のような目的で設計されています:
雇用の維持・創出
労働環境の改善
人材育成の促進
ワークライフバランスの実現
主な助成金の種類
キャリアアップ助成金
人材開発支援助成金
両立支援等助成金
雇用調整助成金
特定求職者雇用開発助成金
助成金の特徴
後払い制:先に投資が必要
要件が厳格:細かい条件クリアが必須
審査期間が長い:数ヶ月~1年程度
労働条件改善が前提:単なる金銭給付ではない
2. 「顧問契約限定」という制限の実態
営業時の説明
社労士事務所の営業では、このように説明されます:
「助成金の申請は、企業の労務管理状況を継続的に把握している必要があります」 「顧問契約を結んでいないと、適切な申請ができません」 「多くの社労士事務所では、顧問先様限定で助成金申請を受け付けています」 「助成金を受給できれば、顧問料の元が取れますよ」
「顧問契約限定」の理由
社労士事務所が顧問契約限定にする本当の理由:
表向きの理由
継続的な労務管理状況の把握が必要
適切な書類整備のため
不正受給防止のため
実際の理由
顧問契約を獲得するための営業ツール
単発では採算が合わない作業量
リスク回避(不支給の場合のクレーム対策)
安定収入の確保(助成金は不確実、顧問料は確実)
他の社労士に依頼できるのか?
実は、助成金申請は:
どの社労士でも申請代行可能
顧問契約の有無は法的要件ではない
単発で助成金申請のみを受ける社労士も存在する
つまり、「顧問契約限定」は法的な制約ではなく、各事務所の方針に過ぎません。
3. 助成金の申請要件の厳しさ
助成金申請の大前提
助成金を申請するには、以下の大前提があります:
労働関係法令の遵守
労働基準法の完全遵守
最低賃金法の遵守
労働安全衛生法の遵守
労働保険・社会保険の適正な加入と納付
一つでも違反があれば、申請すらできません
労働条件の文書化
就業規則の整備(10名未満でも実質必要な助成金もある)
雇用契約書の適切な作成
労働条件通知書の交付
賃金台帳の適正な記録
出勤簿の適正な管理
助成金ごとの個別要件
各助成金には、さらに細かい要件があります:
キャリアアップ助成金の例
正社員転換の計画策定
6ヶ月以上の有期雇用実績
転換後の賃金増額(3%以上または5%以上)
就業規則への規定
転換前後の労働条件の明確化
実際の申請難易度
多くの経営者が気づかない現実:
事前準備に数ヶ月かかる
細かい書類整備が必須
労働条件の実態改善が前提
一つのミスで不支給
受給まで1年以上かかることも
4. スタートアップが助成金を活用できない理由
スタートアップの実態と助成金要件のミスマッチ
理由1:労務管理の体制が整っていない
スタートアップの現実:
就業規則が未整備(整備しなくても申請可能な助成金もある)
労働時間管理が曖昧
雇用契約書が簡易的
賃金台帳の記録が不完全
これらを整備するだけで、相当なコストと時間がかかります。
理由2:労働条件改善の余裕がない
助成金の多くは「労働条件の改善」が前提:
賃金の引き上げ
正社員への転換
教育訓練の実施
福利厚生の充実
スタートアップには、これらを実施する資金的余裕がないことがほとんどです。
理由3:先行投資が必要
助成金は「後払い制」:
まず自己資金で労働条件改善を実施
その後、書類を整えて申請
審査後、数ヶ月~1年後に入金
キャッシュフローが厳しいスタートアップには不向き
理由4:対象となる助成金が限定的
従業員数3~10名程度のスタートアップでは:
大型助成金の多くが対象外
要件を満たせる助成金は限定的
受給額が少ない(数十万円程度)
理由5:本業への影響
助成金申請には:
計画書の作成
細かい書類の整備
労働条件の変更手続き
定期的な報告義務
これらに時間を取られ、本業がおろそかになるリスク
5. 助成金申請の本当のコストとリスク
助成金申請にかかるコスト
社労士への報酬
一般的な報酬体系:
着手金:5万円~10万円
成功報酬:受給額の15%~30%
例:50万円の助成金を受給した場合
着手金:5万円
成功報酬:50万円×20%=10万円
合計:15万円
実質受給額:35万円
労務整備のコスト
助成金申請のための準備:
就業規則の作成・変更:10万円~30万円
雇用契約書の整備:数万円
労働時間管理システムの導入:数万円~数十万円
その他書類整備:数万円
準備だけで20万円~50万円かかることも
時間コスト
経営者や担当者の時間:
社労士との打ち合わせ:数時間
書類作成への協力:数十時間
労働条件変更の社内調整:数十時間
時間コストを考慮すると、本業への影響は大きい
助成金申請のリスク
リスク1:不支給のリスク
要件を満たしていると思っても不支給
細かいミスで不支給
着手金は返還されない
リスク2:労働条件固定のリスク
助成金申請のために変更した労働条件
受給後も簡単には変更できない
経営環境の変化に対応しにくくなる
リスク3:調査・監査のリスク
受給後も数年間、書類保管義務
労働局の調査対象になる可能性
不正が発覚すれば返還請求と罰則
リスク4:機会損失のリスク
助成金申請に時間を取られる
その間、本業の機会を逃す
結果的に、助成金額以上の損失
コストとリターンの冷静な分析
ケース1:キャリアアップ助成金(50万円)
労務整備費用:30万円
社労士報酬:15万円
時間コスト:経営者20時間(時給換算10万円)
総コスト:55万円
受給額:50万円
実質:5万円の赤字(弊社試算)
ケース2:人材開発支援助成金(30万円)
教育訓練費用:20万円(先行投資)
労務整備費用:10万円
社労士報酬:10万円
時間コスト:経営者10時間(時給換算5万円)
総コスト:45万円
受給額:30万円
実質:15万円の赤字(弊社試算)
顧問契約と助成金の関係
営業トークの検証
「助成金を受給できれば、顧問料の元が取れます」
実際の計算:
年間顧問料:21万円
助成金受給額:50万円(仮定)
社労士報酬:15万円
労務整備費用:30万円
実質受給額:5万円(弊社試算)
顧問料の元は取れません
真実
助成金は顧問契約の正当化には使えない
受給できても、コストを考慮すると赤字
そもそも受給できる可能性が低い
まとめ
「助成金は顧問契約が必要」という営業トークを検証した結果:
助成金は雇用保険料が財源で、労働条件改善が前提
「顧問契約限定」は法的要件ではなく、営業戦略
申請要件が非常に厳格で、スタートアップには不向き
先行投資が必要で、キャッシュフローに悪影響
総コストを考慮すると、赤字になるケースが多い
本業への影響を考えると、機会損失のリスクが大きい
特に重要なのは、助成金は「タダでもらえるお金」ではなく、労働条件改善のための後払い補助金だということです。
スタートアップが本当に考えるべきは:
助成金の受給ではなく
事業成長への投資
本業でのキャッシュフロー改善
顧客獲得と売上拡大
年間21万円の顧問料と助成金申請のコスト(数十万円)を、事業成長に投資する方が遥かに効果的です。
次回は、これまでの検証を踏まえて「では、本当に顧問契約が必要な企業とは?」について考察します。

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