顧問契約が本当に必要な企業の条件とは?規模別の最適な社労士活用法
- 代表 風口 豊伸

- 11月6日
- 読了時間: 11分
これまで5回にわたって、顧問契約の問題点を検証してきました。今回は視点を変えて、「では、どのような企業なら顧問契約が必要なのか?」を考察します。
すべての企業に単発契約を勧めているわけではありません。企業の規模や業務の状況によっては、顧問契約の方が合理的な場合もあります。
今回は、企業規模別に最適な社労士活用法を整理し、皆様の会社に最適な選択肢を見つけていただくための指針をお示しします。
目次
顧問契約が合理的な企業の条件
従業員数別の最適な社労士活用法
業種・業態による違い
単発契約から顧問契約への切り替えタイミング
自社に最適な選択をするためのチェックリスト
1. 顧問契約が合理的な企業の条件
顧問契約が有利になる明確な基準
以下の条件を複数満たす企業は、顧問契約を検討する価値があります:
条件1:手続き頻度が高い
月1回以上の社会保険・雇用保険手続きが発生
入退社が頻繁(月平均2名以上)
雇用形態の変更が頻繁
目安:年間24件以上の手続きが発生
条件2:労務相談の頻度が高い
月1回以上社労士に相談したい案件がある
労務トラブルが頻発している
複雑な労働条件の従業員が多数
目安:年間12回以上の相談ニーズ
条件3:専門的な労務管理が必要
変形労働時間制の運用
裁量労働制の導入
複雑なシフト管理
特殊な業態(派遣業、建設業など)
条件を満たす企業の規模感
実際にこれらの条件を満たす企業:
従業員数:30名以上
採用活動が活発(月1~2名の採用)
離職率がやや高い(年間10%以上)
事業が成長期で制度変更が頻繁
逆に顧問契約が不要な企業
以下の企業は単発契約が合理的:
従業員数が10名未満
年間手続き件数が10件以下
労務相談が年数回程度
労働条件が安定している
人員の出入りが少ない
これが、スタートアップや零細企業の大半を占めます
2. 従業員数別の最適な社労士活用法
※下記結果は、従業員別で社労士顧問料の平均的な価格で試算したものであり、
全ての顧問契約に対しての結果ではありません。
従業員数3~10名未満:単発契約が最適
この規模の特徴
入退社:年1~3名程度
月平均手続き件数:0.5件未満
月平均相談件数:0.2件程度
組織の安定性:制度変更が少ない
コスト比較の考え方
この規模では、入退社の手続き+36協定+労務相談のコストで比較します。
2年目以降の想定(年間入社1名・退社1名)
入社手続き(2回目以降):20,000円
退社手続き・離職票あり(2回目以降):30,000円
36協定:40,000円(単発)/ 0円(顧問では無料とされる)
労務相談(年1~2回):5,000円~10,000円
年間合計(単発):95,000円~100,000円
年間合計(顧問):180,000円(月額15,000円×12)
判定:100,000円<180,000円 → 単発契約が圧倒的に有利
年間削減額:約80,000円
従業員数10~20名:単発契約が有利
この規模の特徴
入退社:年3~5名程度
月平均手続き件数:0.5件程度
月平均相談件数:0.3件程度
コスト比較の考え方
2年目以降の想定(年間入社3名・退社3名)
入社手続き(2回目以降):20,000円×3 = 60,000円
退社手続き・離職票あり(2回目以降):30,000円×3 = 90,000円
36協定:40,000円(単発)/ 0円(顧問では無料とされる)
労務相談(年3~5回):15,000円~25,000円
年間合計(単発):205,000円~215,000円
年間合計(顧問):360,000円(月額30,000円×12)
判定:215,000円<360,000円 → 単発契約が明確に有利
年間削減額:約145,000円~155,000円
従業員数20~50名:単発契約が有利
この規模の特徴
入退社:年5~10名程度
月平均手続き件数:1件程度
月平均相談件数:0.5件程度
コスト比較の考え方
2年目以降の想定(年間入社8名・退社8名)
入社手続き(2回目以降):20,000円×8 = 160,000円
退社手続き・離職票あり(2回目以降):30,000円×8 = 240,000円
36協定:40,000円(単発)/ 0円(顧問では無料とされる)
労務相談(年6~10回):30,000円~50,000円
年間合計(単発):470,000円~490,000円
年間合計(顧問):480,000円(月額40,000円×12)
判定:ほぼ同等 → 柔軟性を考慮すると単発契約がやや有利
重要な視点:
年間コストはほぼ同等
単発契約は業務がない月は支出ゼロ
顧問契約は業務がない月も固定費が発生
柔軟性とキャッシュフローを考慮すると単発契約がやや有利
年間入退社が各10名を超える場合は顧問契約が有利になりますが、この規模で年間各10名以上の入退社がある企業は限定的です。
従業員数50~100名:単発契約が有利
この規模の特徴
入退社:年10~15名程度
月平均手続き件数:1.5件程度
月平均相談件数:1件程度
人事担当者が配置される規模
コスト比較の考え方
2年目以降の想定(年間入社12名・退社12名)
入社手続き(2回目以降):20,000円×12 = 240,000円
退社手続き・離職票あり(2回目以降):30,000円×12 = 360,000円
36協定:40,000円(単発)/ 0円(顧問では無料とされる)
労務相談(年12回程度):60,000円
年間合計(単発):700,000円
年間合計(顧問):720,000円(月額60,000円×12)
判定:700,000円<720,000円 → 単発契約がやや有利
この規模では、年間コストはほぼ同等ですが:
業務が発生しない月は支出ゼロ(単発契約)
社内に人事担当者がいるため、定型業務は内製化可能
専門的判断が必要な案件のみ外部依頼が効率的
実際には、社内で処理し、必要な時だけスポット依頼する方が合理的
従業員数100~500名:単発契約がまだ有利
この規模の特徴
入退社:年3~8名程度
月平均手続き件数:0.5~1件程度
月平均相談件数:1件程度
人事労務の専任担当者が配置される規模
コスト比較の考え方
2年目以降の想定(年間入社5名・退社5名)
入社手続き(2回目以降):20,000円×5 = 100,000円
退社手続き・離職票あり(2回目以降):30,000円×5 = 150,000円
36協定:40,000円(単発)/ 0円(顧問では無料とされる)
労務相談(年12回程度):60,000円
年間合計(単発):350,000円
年間合計(顧問):800,000円~1,000,000円(規模により変動)
判定:350,000円<800,000円 → 単発契約が圧倒的に有利
年間差額:約45万円~65万円
この規模では、顧問料が高額になる一方、実際の入退社は年間数名程度のため:
単発契約が経済的に圧倒的に有利
社内に人事担当者がいるため、定型業務は内製化可能
専門的判断が必要な案件のみ外部依頼が効率的
実際には、社内で処理し、必要な時だけスポット依頼する方が合理的
従業員数500名以上:状況により判断
この規模の特徴
入退社:年10名前後
月平均手続き件数:1.5件程度
月平均相談件数:2件以上
人事労務の専任担当者が複数名
コスト比較の考え方
2年目以降の想定(年間入社10名・退社10名)
入社手続き(2回目以降):20,000円×10 = 200,000円
退社手続き・離職票あり(2回目以降):30,000円×10 = 300,000円
36協定:40,000円(単発)/ 0円(顧問では無料とされる)
労務相談(年24回以上):120,000円以上
年間合計(単発):660,000円以上
年間合計(顧問):1,200,000円以上(月額100,000円×12)
判定:単発660,000円<顧問1,200,000円 → 単発契約が有利
驚きの結果:従業員数500名以上でも単発契約の方が安い
この規模では、顧問料が非常に高額になる一方:
年間入退社が各10名程度では顧問料を正当化できない
社内に人事労務の専任担当者が複数名いる
定型業務は完全に内製化可能
専門的判断が必要な案件のみ外部依頼で十分
最適な活用法
選択肢1:単発契約+社内人事担当
定型業務は完全に社内で処理
専門的判断が必要な案件のみスポット依頼
年間60万円程度のコストで済む
選択肢2:社内に社労士資格者を雇用
この規模なら、社内に専門家を置く方が効率的
外部は特殊案件のみスポット依頼
社労士資格者の人件費(月30~40万円)でも顧問料より安い
結論:従業員数500名以上でも、実際の入退社人数が少なければ単発契約が合理的
3. 業種・業態による違い
業種別の社労士活用法
飲食業・小売業
特徴
パート・アルバイトが多数
入退社が頻繁
シフト管理が複雑
最適な活用法
従業員数が多くても、正社員は少ない
パート・アルバイトは雇用保険のみのケースが多い
実際の手続き件数は従業員数の割に少ない
従業員数100名でも、月平均手続きは2~3件程度
相談ニーズ:労働時間管理、シフト作成
単発契約でも十分対応可能
IT・Web業界
特徴
正社員中心
採用活動が活発
労働時間管理が複雑(裁量労働制など)
最適な活用法
正社員は社会保険・雇用保険の両方で手続き
1名あたり手続き件数が多い
従業員数50名で月平均2~3件の手続き
相談ニーズ:労働時間制度、就業規則整備
従業員数100名程度までは単発契約が有利
建設業
特徴
現場労働者が多数
一人親方との関係
労災保険の特殊性
最適な活用法
従業員数に関わらず専門知識が必要
建設業特有の労働保険事務組合などの知識
相談ニーズが多い業種
月平均の相談+手続きが3件を超える場合は顧問契約を検討
ただし、従業員数50名未満なら単発でも対応可能なケースが多い
医療・福祉業
特徴
夜勤・交代制
変形労働時間制
労務管理が複雑
最適な活用法
労働時間管理の複雑さから相談ニーズが多い
ただし、手続き件数自体は従業員数に比例
月平均3件以上の業務が発生する規模(従業員数100名程度)で顧問契約を検討
それ以下の規模では単発契約で十分対応可能
成長ステージによる違い
シード・アーリー期
従業員数:1~5名
最適:単発契約
手続きは最小限、本業に集中
グロース期
従業員数:6~20名
最適:単発契約
採用が活発化するが、まだ月次ではない
エクスパンション期
従業員数:21~50名
最適:状況に応じて顧問契約検討
組織整備が本格化
成熟期
従業員数:51名以上
最適:顧問契約または社内専門家
安定した労務管理体制
4. 単発契約から顧問契約への切り替えタイミング
切り替えを検討すべきサイン
サイン1:コストの逆転
最も重要な判断基準
直近12ヶ月の単発費用を計算
年間単発費用が年間顧問料を大幅に上回る状態が続く
具体例:年間単発費用1,000,000円>年間顧問料(従業員数に応じた額)が2年連続
ただし、従業員数に応じた顧問料も考慮する必要がある
サイン2:入退社の大幅な増加
年間入社が20名以上に増加
年間退社が20名以上に増加
一時的な増加ではなく、構造的な増加
今後も継続する見込みがある(従業員数1,000名以上の規模)
サイン3:相談ニーズの大幅な増加
月5回以上相談したいことがある
労務トラブルが頻発
極めて複雑な労務管理が必要
サイン4:大規模な組織拡大
今後6ヶ月で50名以上の採用予定
継続的かつ非常に大規模な採用活動
従業員数が1,000名以上になる見込み
逆に、顧問契約を解約すべきサイン
サイン1:コストの不均衡
最も重要な判断基準
直近12ヶ月の入退社人数と相談回数を確認
年間単発費用を計算
年間単発費用が年間顧問料を下回る状態が2年続く
サイン2:入退社の減少
年間入社が20名未満に減少
年間退社が20名未満に減少
定期手続き以外の依頼がほとんどない
顧問料に対して業務量が見合わない
サイン3:事業の安定化
人員の出入りが少なくなった
労働条件が安定した
新規施策の予定がない
サイン4:社内体制の充実
人事担当者が労務に精通してきた
定型業務は社内で処理可能
判断に迷うケースが減った
これらに該当する場合、単発契約への切り替えを検討すべき
多くの企業が「顧問契約を結んだら永続的に継続」と思い込んでいますが、事業状況に応じて柔軟に見直すべきです。
5. 自社に最適な選択をするためのチェックリスト
単発契約が最適な企業チェックリスト
以下の3項目以上に該当すれば、単発契約が最適です:
□ 従業員数が1,000名未満
□ 年間の入社人数が20名未満
□ 年間の退社人数が20名未満
□ 社内に人事担当者がいる(または配置予定)
□ キャッシュフローの柔軟性を重視したい
ほぼ全ての企業が該当します 従業員数に関わらず、年間入退社人数で判断することが重要
顧問契約が最適な企業チェックリスト
以下の5項目以上に該当すれば、顧問契約を検討すべきです:
□ 従業員数が1,000名以上
□ 年間の入社人数が20名以上
□ 年間の退社人数が20名以上
□ 月平均の相談ニーズが5回以上
□ 採用活動が非常に活発(月2~3名以上の採用が常態)
□ 労務トラブルが頻発
□ 極めて複雑な労務管理が必要
□ 極めて高い離職率(年間50%以上)
該当する企業は極めて限定的
重要:従業員数が多くても、年間入退社人数が少なければ単発契約が有利です
コスト試算シート
自社の年間コストを試算してみましょう:
単発契約の年間コスト計算

初回手続きは会社情報登録が必要なため高額
2年目以降は2回目以降料金で大幅にコスト削減
算定基礎届・労働保険年度更新は従業員数で料金変動するため、別途見積が必要
顧問契約の年間コスト

注意:
算定基礎届・労働保険年度更新は顧問契約でも別途費用(月額顧問料相当)が発生
これらは従業員数で料金が変動するため、単純比較が困難
判定基準
単発契約の年間コスト < 顧問契約の年間コスト → 単発契約が有利
単発契約の年間コスト > 顧問契約の年間コスト → 顧問契約が有利
実務的な判断ポイント
年間の入退社人数を正確に把握(過去実績から算出)
初年度と2年目以降でコストが大きく変わることを考慮
業務が発生しない月も顧問料は固定費として発生
変動費(単発)vs 固定費(顧問)の特性を理解
年間入退社が各10名未満なら単発契約が有利な傾向
年間入退社が各15名以上なら顧問契約を検討する価値あり
まとめ
企業規模別の最適な社労士活用法をまとめると:
従業員数10名未満:単発契約が最適(年間5~7.5万円の削減)
従業員数11~20名:単発契約が有利(柔軟性とコストのバランス)
従業員数21~30名:状況による(月次業務の発生状況で判断)
従業員数31名以上:顧問契約を検討(コストがほぼ同等、利便性が向上)
従業員数50名以上:社内体制の構築(外部依頼の最適化)
重要なのは、自社の実態に合わせた選択をすることです。
「顧問契約が当たり前」という思い込みを捨てる
年間の実際の業務量を把握する
コストと便益を冷静に比較する
事業の成長段階に応じて見直す
次回は、「単発契約で社労士を活用する具体的な方法」について、実践的なノウハウをお伝えします。

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